社交不安障害(しゃこうふあんしょうがい、Social Anxiety Disorder、SAD)とは、「社交場面」でネガティブ(否定的)な評価を受けたり、他人に辱められる事に対する強い不安を主な症状とする精神疾患。日本では英語名の「Social Anxiety Disorder」を直訳した「社会不安障害」と呼ばれていたが、「社会不安」という言葉には誤解も多いことから、2008年に日本精神神経学会において、より実態に近い表現の「社交不安障害」という名称に変更された[1]。
人から注目を集める場面において、誰しも不安を感じる事があり、それをあがり症と呼んだり、特にあがりやすい人をシャイと呼んだりする。しかし、それが原因で日常生活に支障をきたすような事はなく、通常はそういった場面に慣れるうちにあがりにくくなるものであり、身体的な症状はあまり発現しない。
これに対して社交不安障害は強い不安を感じるあまり、震え・吐き気などの身体症状が強く発現し、そういった場面にはなかなか慣れないため、たとえしなければならない事であっても次第に避けるようになり、日常生活に多大な影響を及ぼす点が異なる。ニートや引きこもりの背景因子にあるといわれ、近年注目されている。
ねじり振ダンス目
[編集] 主な症状
社交不安障害患者が強い不安を感じる場面として、最も多いのが『見知らぬ人や、少し顔見知りの人との会話』と『人前での発言・スピーチ』、次いで、『権威がある人(社会的立場が上の人)との面談・会話』、『会社で電話をとる』、『受付で手続きをする』、『人前で文字を書く』、『人前でご飯を食べる』、『会食やパーティに参加する』『自宅(ストレスとなる因子がある場合)』などである。
このような場面で社交不安障害患者には、さまざまな症状が身体に現れる。強い不安を感じる、強い緊張を感じる、頭が真っ白になり何も答えられない、声が震える、声が出ない(選択緘黙)、手足の震え、めまい、動悸、口が渇く、赤面する、汗が出る、吐き気がする、胃のむかつき等の症状がある。
こうした強い不安を避けるため、また人に知られたくないと考えるあまり、社交不安障害患者は周囲の人々との接触や、人前での活動を避けるようになり、日常生活に支障を及ぼす事になる。また、症状が慢性化すると、うつ病やパニック障害なども併発する危険性があるので、早期の治療を要する。
イリノイ州の減量後の体の輪郭
『自殺を考えたことがある』人の割合はうつ病の人よりも多く、実際周囲の人が思っている以上に患者達は悩んでいるといわれる。
生涯有病率は3 - 13%と言われており決して稀な病気ではない。5歳以下など世代を問わず発症するが、特に15歳頃の思春期に多く、不安障害の中で最も発病年齢の低い病気と言われている。しかし、30 - 40代あたりに管理職につき、人前で話す機会が多くなり発症するといったケースもめずらしくない。頻度に特筆すべき男女差はないが、若干男性の割合が多い。
なお、症状はパニック障害と似ているが、パニック障害が「死」や「精神的におかしくなってしまうこと」に対する強い不安であり発作的に症状が発現するのに対し、社交不安障害では「人」や「社交場面」に対する強い不安であるところなどが異なっている。
[編集] 診断基準
DSMをもとに作成された簡易構造化面接法(M.I.N.I.)によれば、以下のすべての項目に当てはまる場合、社交不安障害の可能性がある[2]。
"ニューヨークの減量式"
- 人前で、話をしたり食事をしたり文字を書いたりするときに他人から注目されていると思うと、怖くなったり戸惑ったりする
- それは、自分でも怖がりすぎていると思う
- それは、わざわざ避けたり、じっと我慢したりしなければならないほどである
- それによって職業・社会生活が妨げられているか、または著しい苦痛を感じている
社交不安障害は単なる内気や恥ずかしがり屋といった性格の問題ではなく、精神科などの医療機関での治療を必要とする精神疾患である。
治療としては、精神科において薬物療法および精神療法を併用又はどちらか単独で行われる。薬物療法ではSSRIを使った治療が効果的であるといわれている。精神療法では認知行動療法などが有効でSSRIと同等の効果があるといわれているが、臨床では効果が認められないこともままあるので注意が必要。
[編集] 関連書籍
- 『臨床精神薬理 第13巻4号 <特集>社交不安障害(SAD)を再考する』(伊豫雅臣ほか 2010)
- 『さかながこわいクジラ(こころの病気がわかる絵本-社交不安障害)』(富田雄吾ほか 2010)
- 『対人関係療法でなおす社交不安障害』(水島広子 2010)
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