2012年5月30日水曜日

歩行異常


(1) 鳥の歩き方と止まり方

鳥は人と同じ2足歩行の動物です。鳥の歩き方には、「足を交互に出す」と「両足で同時に跳ねる」の2種類があります。目(Order)によって歩き方はほぼ決まっており、飼い鳥ではインコ・オウム類が「足を交互に出す」、フィンチ類が「両足で同時に跳ねる」です。歩き方はその鳥の食性もよく表しており、「足を交互に出す」種類は地上で採食をする傾向が強く、「両足で同時に跳ねる」種類は樹上で採食をする傾向が強いです。ちなみにスズメ目には例外的な歩き方をする種類がおり、主に地上で行動するセキレイやツグミは「足を交互に出す」種類であり、カラスに至っては「足を交互に出す」と「両足で同時に跳ねる」のいずれも可能で、組み合わせた歩行もできます。
 インコ・オウム類とフィンチ類は樹上棲であるため、止まり木に止まって生活させるのが基本です。インコ・オウム類とフィンチ類では足の形状が異なるため、止まり方も異なります。インコ・オウム類は、第1趾と第4趾が後方、第2趾と第3趾が前方です。フィンチ類は、第1趾が後方、第2〜4趾は前方です。フィンチ類よりもインコ・オウム類の方が、握力が強い傾向があり、物を掴む能力が優れています。


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(2) 歩行異常の原因

歩行には錐体路(UMN:上位運動ニューロン)、錐体外路系(小脳、基底核、錐体外路)、前庭神経系、LMN(下位運動ニューロン)、深部知覚、視覚、筋肉、上下肢骨、脊椎、関節などの機能の密接な相互関連が必要です。これらの機能の障害により様々な種類の歩行異常が起こります。
 鳥の移動手段は飛ぶことが主であり、またケージ内では止まり木に止まっているため、実際には前方に歩行することは哺乳類に比べ少ないです。よって脚の異常を脚弱ということも多いです。脚弱の原因は、歩行異常と同じです。
 歩行異常の原因には、麻痺/運動失調、疼痛、体型異常があります。またその他の歩行異常に、ハイヒール歩行があります。ハイヒール歩行とは、中足関節を接地せず、趾先で立っている状態をさします。主にセキセイインコにみられ、伸び上がったり、人に向かって飛びつくといった挙動異常の一環としてみられることが多く、精神不安定が原因とみられます。

(3) 麻痺/運動失調による歩行異常の鑑別診断

 麻痺/運動失調の原因には、中枢性神経障害と末梢性神経障害があります。(表1)障害部位の特定と鑑別診断には、神経学的検査、レントゲン検査および血液生化学検査を行う必要があります。犬猫では、様々な神経学的検査が可能ですが、鳥は小さく、また飛翔能力に問題が無ければ飛んでしまうため、保定下での検査を行うのが一般的です。

表1:麻痺/運動失調による歩行異常、脚弱の原因と臨床徴候


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障害部位 原因 臨床徴候
中枢性神経障害
UMN障害
・外傷、脳脊髄炎、中毒、肝性脳症、腫瘍、医原性など
筋痙縮による麻痺/不全麻痺
ナックリング
錐体外路系障害
・外傷、脳炎、中毒、肝性脳症、腫瘍、医原性など
運動失調
旋回運動
中枢性前庭障害
・外傷、脳炎、中毒、肝性脳症、腫瘍、医原性など
運動失調
旋回運動
平衡維持困難
斜頸
眼振
片側不全麻痺
固有受容感覚不全
末梢性神経障害 LMN障害
・多発性神経炎
・低Ca血症
・脊椎変形/骨折
・腎肥大、腫瘍
・精巣肥大、腫瘍
・関節症による圧迫
筋弛緩による麻痺/不全麻痺
運動失調
ナックリング
  感覚神経障害
・多発性神経炎
・低Ca血症
筋弛緩による麻痺/不全麻痺
運動失調
  末梢性前庭障害
・内耳炎
・腫瘍
運動失調
旋回運動
平衡維持困難
斜頸
眼振
身体検査による非神経学的疾患との鑑別

最初に全身的な身体検査を行い、神経学的疾患と混乱しやすい病態を排除する必要があります。両側の股関節脱臼や肢骨骨折は、脊髄損傷時の対麻痺に似た症状がみられます。また血行障害による筋萎縮は、LMN障害による麻痺に類似します。
 運動失調と衰弱も鑑別する必要があります。運動失調は動揺歩行やよろめき、ケージの伝い歩きが出来ないといった特徴があります。衰弱は栄養状態が悪く、脱水が見られ、膨羽嗜眠があり、力が入らない状態です。運動失調のある鳥が衰弱している場合は、鑑別困難です。


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筋緊張検査による鑑別

筋緊張の検査は、病変が中枢性か末梢性かを鑑別する上で重要です。麻痺の原因には、筋痙縮と筋弛緩があります。筋痙縮はUMN障害時にみられ、筋弛緩はLMN障害や感覚神経障害時にみられます。
 筋緊張の評価は、伸展に対する抵抗性で評価します。まず鳥を保定し、趾を持って脚を曲げたり、伸ばしたりします。伸展に対する抵抗が大きければ筋痙縮であり、抵抗がなければ筋弛緩です。

ペダル反射による鑑別

 ペダル反射は屈筋反射として知られ、疼痛刺激によって脚を引く反射が含まれます。検査法はまず鳥を保定し、趾を爪先で挟んでみます。正常では脚を引っこめる反応が起こります。UMN障害時にはこの反射がみられますが、脚の屈曲が持続します。LMN障害ではこの反射が完全または部分的に欠如します。

排泄孔反射による鑑別

哺乳類では肛門反射と呼ばれますが、鳥は肛門ではないため排泄孔反射と筆者は呼んでいます。直接的な脚の検査ではないですが、仙椎部と馬尾の評価をする上で重要です。検査法はまず鳥を保定して排泄孔を確認し、次に綿棒を用いて軽く孔に触れてみます。通常は括約筋の収縮がみられます。この反射がみらず、弛緩している場合は、仙椎部の脊髄分節や馬尾を犯すLMN障害の存在を示しています。

レントゲン検査による鑑別

 神経疾患が疑われた場合は、頭頸部および脚を含む体幹部のVD像、LL像撮影を行います。くる病・骨軟化症による脊椎変形、脊椎骨折、脊椎症は、LMN障害、感覚神経障害を引き起こします。また腎肥大・腎腫瘍、精巣腫瘍は、仙椎部の脊髄分節への圧迫によりLMN障害、感覚神経障害を引き起こします。発情の強い雌鳥は、多骨性過骨症性の関節症を引き起こし、疼痛の他、圧迫により、それ以端のLMN障害、感覚神経障害を引き起こします。
 頭部撮影で、鼓室胞の混濁がみられる場合は、内耳炎による末梢性前庭障害が疑われます。


血液検査による鑑別

運動失調の鑑別には、血液生化学検査も同時に行います。神経疾患のほとんどで、CPKの上昇がみられます。血中のCa濃度が低い場合は、神経の伝達障害による麻痺が考えられます。血中のアンモニア濃度が高い場合は、肝性脳症が考えられます。白血球の上昇がある場合は、感染、炎症の存在が考えられます。

(4) 疼痛による歩行異常の鑑別診断

身体検査による鑑別

 身体検査で疼痛があるかどうかを見る場合は、患部を触ってみて鳥が嫌がるかどうかで判断します。嫌がる場合は、暴れたり鳴いたりします。しかし保定されること自体が嫌で暴れる場合もあるので、判断が難しい場合もあります。またあまりにも痛いと力を全く入れず、麻痺と鑑別がつかない場合もあります。
 骨折している場合は、触ると折れている部位がゴリゴリという感覚があり、周囲の筋肉に内出血がみられます。
 外傷性の脱臼の場合は、股関節の脱臼では脚が外転(開脚してしまう)し、膝関節の脱臼では膝を曲げられず伸ばしたままになることが多いです。
 足(中足関節または趾)の裏の発赤や腫脹がある場合は、趾瘤症であることが多いです。
 趾関節、中足関節、足根関節に腫脹があり、内部に白から黄白色の貯留物がある場合は、痛風結節か膿瘍です。

レントゲン検査による鑑別

 外傷性の疼痛による歩行異常がある場合には、レントゲン検査をします。骨折、脱臼の診断ができます。

血液検査による鑑別

疼痛による歩行異常で血液検査が必要になる病気は、痛風です。痛風の場合、尿酸値の上昇がみられ、膿瘍と鑑別することができます。

(5) 体型異常による歩行異常の診断

 体型異常による歩行異常を示す病気には、ペローシス、趾曲り、クル病、骨軟化症があります。これらは特徴的な外貌や飼育状況の聴取で診断できます。病気の程度を診断する上で、身体検査やレントゲン検査を行います。


身体検査による診断

 ペローシスは、両側または片足の脚伸びて開脚しているのですぐに分かります。
 趾曲りは、趾が内側に湾曲した状態です。
 クル病と骨軟化症は、全身の骨の変形です。脚や脊椎が変形しています。

レントゲン検査による診断

 ペローシスやクル病、骨軟化症の時の骨の変形の確認を行います。



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